不祥事を機会点とし信頼回復の最短距離を歩む為に

先日、明治安田生命が10年前に起こった同社の不祥事を、今でも積極的に話題にしているという記事が話題になりました。

組織の不祥事は、悪意のない場所からも発生し得るという現実

『明治安田生命の社長は入社式で10年前の不祥事に触れ、「絶対に風化させない」と語った。当時、企画部長の立場で業務改善計画づくりの指揮を執っていた社長の根岸秋男は、13年に経営トップに立つと「行政処分を風化させない」と、ことあるごとに職員に訴え入社式のあいさつでも語り続けている。自らの経営の道筋を示した「ビジョンブック」の巻頭部分にも掲げた。行政処分から10年の節目だった昨年末、各部署であの頃の体験を共有しようというミーティングを呼びかけたのも根岸だ。
AERA 「10年前の不祥事」あえて入社式で語る 明治安田生命社長の思い 2016/02/22』

2005年の2月、明治安田生命は告知義務違反の不祥事が発覚、2週間という国内保険業界史上最長期間の業務停止命令を受けます。続く7月には約15億円以上の保険金未払いが発覚し、当時の社長と会長が辞任に追い込まれています。

この場合の告知義務違反とは、たとえば営業担当者が加入希望者の病歴を偽って保険契約を行うなどの行為、保険金未払いとは、支払い担当者が病歴を偽って保険に加入した契約に対し、虚偽の申告としたという理由で保険金の支払いを拒否したことなどが該当します。保険加入時には、営業担当者が審査を通すために病歴をあえて書かずにいたのに、いざ支払いの段になると、加入前の審査で虚偽の申告をしているという理由で突っぱねたわけです。

残念な話ですが、不祥事と呼ばれる事件は悪意のないところにも発生します。上記の明治安田生命の一件でも、組織ぐるみで意図して告知義務違反と保険金未払いを行っていたわけではありません。営業担当者は契約を獲得したい、保険加入を希望する相談者の願いを叶えたいと思っただけ、支払い担当者は支払いのルールを遵守しているだけ、どちらも職務に忠実なだけで、少なくともその時点では顧客に対する悪意はなかったでしょう。

もちろん不祥事の発生を未然に防ぐ、健全な企業風土を作る努力は組織に求められますが、商品の欠陥や不備を隠蔽する明確な悪意が売り手側になくとも、不祥事はどの企業にも発生し得るということです。不祥事が発覚した際に、スピーディーかつ徹底した謝罪や原因究明を行うのは当然として、その後の再発防止への取り組み姿勢が、地に落ちた組織の信用を取り戻す為の鍵を握っています。その点で明治安田生命の取り組みは、組織を運営する上で学ぶところの多い事例と言えるでしょう。

 

不祥事という「恥」に、あえて触れることで得られるもの

明治安田生命の取り組みの中で、失った顧客の信用回復に最も効果を発揮しているのは、行政処分という「恥ずべき過去」を、人材育成の為の教材として使う覚悟があるということに尽きます。単に再発防止策というだけなら、保険の加入条件と支払い条件の運用基準を、完全に一致させるよう徹底すれば済む話です。実際に企業で起こった不祥事の多くは、該当者と責任者の処分や、既存または新設ルールを徹底させるという内容で落ち着くことが多いのですが、実はそれで済まさないことに大きな意味があります。

企業にとっての不祥事は、まさに「恥ずべきこと」です。新たな顧客となり得る消費者に対しては出来るだけ知らせたくない事実ですし、社史においても汚点であり黒歴史である為、社内でもオープンに語ることは避けられる傾向があります。しかし、組織があえて「恥ずべきこと」に踏み込む姿勢を見せることで、得られるものがふたつあります。ひとつは顧客指向という企業風土、そしてもうひとつは、意外にも顧客からの信用です。

 

誰を相手に商売を行っているのか、という観点から見えてくる組織の立ち居振る舞い

不祥事によって被害を受けるのは常に顧客です。時には売り手の悪意や保身の為に、顧客が不祥事の犠牲となります。売り手である企業には「その商売は誰を相手に行っているのか」という認識が常に求められます。不祥事を再発させないルールを遵守するだけでなく、それを運用する従業員が、顧客に損害を与えた黒歴史を知り、目の前の顧客に対して決して同じ轍を踏まないという意識付けが行われることは、企業風土を形成する上で大きな意味を持ちます。

また、過去の不祥事をうやむやにせず、正面から受け入れ向き合おうという企業の姿勢が見えることで顧客は安心します。起こった不祥事は取り消せませんし、そこで失った信用は還って来ないかもしれません。しかし、もし失った信用を回復させるチャンスがあるのだとしたら、それは「同じ過ちは絶対に起こらないだろう」という安心感を顧客に与える以外ありません。不祥事によるダメージの回復は、不祥事で与えた不安や憤りを、どれだけ早く払拭出来るかにかかっているわけです。

商売は信用です。顧客との信頼関係があることを前提に成立します。何かのきっかけでその信用が失われたのなら、回復する以外に方法はありません。過ぎた話だと過去の過ちに触れるのを避ける取引相手と、二度と同じ過ちを繰り返さないよう生きた教材として反芻し、信用回復に努める姿が見て取れる取引相手、どちらを信用したくなるかというシンプルな問題なんですね。