お店のセルフサービス化で、大手牛丼チェーンの人材不足は本当に解消するのか

大手牛丼チェーンの「松屋」と「吉野家」は、一部の店舗をセルフサービス形式にリニューアルし、人材不足解消への活路を見出そうとしています。

 

意外と違和感のない、大手牛丼チェーン店のセルフサービス方式導入

『松屋がセルフ式の実験店を出した狙いは、労働時間の削減や生産性の向上だ。多くの外食チェーンと同様、松屋でも従業員確保が課題となっている。松屋フーズの担当者は「従来店と比べて、セルフ式店舗はピーク時の従業員を1人削減するといったことを目指している」と話す。(中略)吉野家は2016年3月、恵比寿駅前店を改装し、新型店を実験的に出店した。(中略)客から見える部分だけではなく、炊飯器を小型にしたり、納戸の高さ・重さを変更したりと、厨房内も女性・シニアが働きやすい仕様に変更した。
東洋経済オンライン 松屋と吉野家の「超絶進化」に見る牛丼の未来 2017/05/04』

この記事によると、リニューアルされた店舗では、券売機のタッチパネル式への変更、お水のセルフサービス、商品渡し時の番号呼び出し、返却口の設置、ドリンクバーなどが導入されているようです。導入されたシステムだけを見ると、確かに同チェーンの既存店舗では見られなかったものではありますが、決して目新しいシステムが登場したわけではありません。印象としては、サービスの質がフードコートやサービスエリアの食堂のソレに近付いただけのように見受けられます。

もともと大手の牛丼チェーン店に、手厚いサービスを期待している人は少ないはずです。セルフサービスシステムの店舗が展開されても、お店のサービスレベルに大きな不満を抱く消費者は少ないでしょう。そういう意味では、両社の施策は「指し手」としては間違っていないと判断できます。消費者に大きな不満を抱かせることなく、接客サービスの一部を簡素化することに成功する可能性はかなり高いと言っていいのかもしれません。

 

セルフサービスシステムは、スタッフ不足の根本的解消には繋がらない

ただ、人材不足が取り沙汰される昨今の状況では、店舗のセルフサービス化推進によって得られる恩恵は、私たちが考える以上に少ないと言わざるを得ません。上の記事で松屋フーズ担当者が「ピーク時」の従業員を1人削減することを目指している、と言っている通りで、セルフサービスシステムで浮くスタッフの作業工数はごくわずかです。それらの工数を積算し、スタッフ一名分の労働に換算する為には、お店のピークタイムと呼べるくらいの来客数が必要になるからです。

セルフサービスシステムの効果が発揮される時間がお店のピークタイムと限定的な上、慢性的に人不足とされる深夜や早朝にはお店のピークを想定していない為、一番スタッフが欲しいはずのこの時間帯には、システムのメリットを享受できない可能性が高いのです。もちろんピークタイム以外の時間帯では、従来と同じだけのスタッフ配置が必要です。既存スタッフの仕事が減り「ちょっと楽になる」ことは期待できますので、人件費の削減や労務軽減には寄与しますが、少なくとも人材不足解消の決定打にはならないわけです。

 

「従業員を雇わないで済ませる方法」だけでは解決しない問題

これは牛丼チェーンに関わらず、飲食・サービス業全般に言えることですが、深刻な人材不足であることはメディアの報道や厚労省の調査からも明らかです。しかしこの問題は、日本国内に就労可能な人間の絶対数が不足しているから起こっているのではありません。この業界での就労を望まない人間の絶対数が多いから起こっているのです。人がいないのではなく、このお店で働きたいと思う人がいないことが最大の問題なのです。

少し前に話題となった、大手ファミリーレストランの深夜営業中止と同様に、今回の大手牛丼チェーンのセルフサービス化の動きも、その動機の一部は人材確保の難しさから来るものです。どちらのケースも結果的に打ち出された施策は「従業員を雇わないで済ませる方法」としての深夜営業中止やセルフサービス化ですが、この業界で働きたいと思わせる改革を同時展開しないと、最悪の場合は人材不足により一時的な営業停止を強いられる、という事態も充分に起こり得ます。

 

働きたくなる職場作りは、まず企業イメージの改革から

今回のセルフサービス化は、多少なりともスタッフの作業工数が減りますので、上手にアピールすれば多少の人材確保につながる見込みはあります。ですが根本的な人材不足の問題は、時間とコストを投資してでも、勤務待遇と業界全体のイメージを劇的に改善する以外にはありません。特にこの業界には、ワンオペという強烈な黒歴史があります。たとえ他社の事例であったとしても、業界単位での印象差だけで言えば、他業態の飲食業よりもさらにイメージは数段下がると思って間違いはないでしょう。

何かひとつの施策を打つだけで、人材不足が解消するような一発逆転ホームランなど望めません。給与体系、有給制度、店舗スタッフ間のコミュニケーションの良さ、制服、店舗の外観・内観、メディアでの企業イメージ発信など、忍耐強く長期にわたって企業単位・業界単位でイメージを塗り替える活動が求められます。