店舗ビジネスの慢性的な人手不足を根本的に解決する方法

どもっ!商売力養成コンサルタントの福谷です。

 

店舗スタッフの人手不足が深刻です。慢性化するこの状況を、組織はどのように脱すればよいのでしょうか。

 

スタッフの充足率が低い店舗に存在する、人手不足“負のスパイラル”

アルバイト、正社員等の雇用形態を問わず人手不足が叫ばれています。飲食業やサービス業など、アルバイト比率の高い業種が話題になることが多いですが、これらの業種すべての店舗が人手不足に陥っているわけではありません。実際には、一年を通して求人メディアでの募集を一切しなくても、スタッフが充足している店舗があります。一方で、常に人材が不足しているお店も数多く存在します。

実は、スタッフが慢性的に不足しているお店には、人手不足が原因で新たな人手不足を呼ぶ「負のスパイラル」が発生しています。

[人手不足“負のスパイラル”とは]
① スタッフが不足する
② 既存スタッフの負担が増え、労働環境が悪化する
③ 離職者が増える
④ ゆとりの無い店舗オペレーションが原因で、応対不良のクレームが増える
⑤ 退職者・来店客よるネガティブなクチコミが行われる
⑥ 求人時の反応が悪化し、ますます①が加速する
以下、①~⑥がループする

 

店舗ビジネスだけが抱える、人材不足倒産の危機と悪循環

一見すると、こうした負のスパイラルは店舗ビジネスに限った話ではない、と感じる方もいるでしょう。事務職でも製造現場でも、業種を問わずあらゆる組織で発生する問題に見えますし、実際にどの業種でも似た状況は発生します。しかし、人手不足が発生してループに変わるまでのスピードは、他業種の比較にならないほど店舗ビジネスの方が早いという特徴があり、それには二つの理由があります。

理由の一つ目は、店舗ビジネスはお客様というエンドユーザーが、人材不足による店舗オペレーションの不具合をダイレクトに体感する、ということです。待たされる、余裕と笑顔のない接客、オペレーションんミスなどの迷惑がかかります。お客様にとっては紛れもなく不快な経験であり、クレームや以降の購入見合わせだけでなく、不快な経験をクチコミで拡散する可能性が極めて高いといえます。

二つ目は、店舗ビジネスの多くは特定の場所で特定の住民を対象にした「地域ビジネス」だということです。これは、そのお店でスタッフとして働く人たちの対象エリアと、お店のお客様が暮らす商圏がほぼ一致している、ということを意味します。元スタッフが誰かに話す職場環境の悪さも、元客が誰かに話すお店への悪口も、すべて「求人に応募する可能性のある人」の耳に入る場所で行われているわけです。悪口が耳に入ってくるお店で働きたいなんて考える人はまれです。

近い将来誰かが店舗スタッフになる可能性の芽を、元スタッフと元客の両輪で踏み潰す状況が店舗ビジネスでは簡単に起こり得ます。この悪循環はどこかで断ち切らないと、人材と売上の両方を同時に失うというジリ貧が待ち受けているのは間違いありません。店舗ビジネスでの人手不足の放置は、事業を廃業に追い込むだけのポテンシャルを持っていると言っても過言ではないのです。

 

スタッフの退職理由と向き合わない限り、人手不足の悪循環は解消されない

このように、店舗ビジネスでの人手不足放置は経営に大きな打撃を与えますが、募集すれば簡単に人材が集まる時代ではない今、組織には二つの施策が求められます。一つ目は、既存スタッフが辞めたくなる理由を排除・改善する職場環境の整備、二つ目は、少人数でも店舗運営が行える徹底したオペレーションの省力化・効率化です。しかしその前に、大前提として組織が取り組むべきことがあります。

それは、過去に退職した人たちがどんな理由で組織を去ったのかという問題に真正面から向き合う、という決め事を設けることです。「たったそれだけ?」と感じるかもしれませんが、組織側は往々にして、スタッフが退職する理由をスタッフ側の問題として処理する傾向があります。スタッフが職場環境に大きな不満を抱えて辞めたとしても、「あいつは向いてない」「仕事ができない」「不満が多い」などの烙印を現場で勝手に押して終わらせるケースが散見されます。組織について行けなかった残念な人、という認識で処理されるわけです。

就業を希望して働き出したはずのスタッフが、辞める決断をするに至った理由と向き合わない限り、離職率は決して改善しません。退職スタッフが、もし本当に適性の低い人材だったとしたら、それは組織の採用基準に問題がありますし、仕事のできない人材だったとしたら、それは組織の教育制度に問題があります。基本的にスタッフが退職する原因は、ほとんど組織が自ら生み出したものです。残念ながら、退職理由を本音レベルで聞き出し、自社の改善につなげる仕組みを持つ人事採用部署は、意外なほど少ないのが現実だといえます。

退職するスタッフ本人からの聞き取りや、同僚・部下・上司からの評価を鵜呑みにすることなく退職原因を追究する仕組みが機能することで、組織内の問題が浮き彫りになります。中には思いもよらない問題や、気付いていたけどあえて触れずにいた問題も出てくるでしょう。しかし、組織固有の退職理由を明確にし、原因を確実に潰していくという手順を踏まないと、これからもスタッフの流出は続きます。今は人余りの時代ではないのです、せっかく採用した貴重な人的資産を長期間保有したいのであれば、彼らが辞めたくなる理由を着実に駆逐していく以外に策はありません。

 

スタッフが辞めたくならない環境整備とは

退職者に対する取り組みで得られた情報が蓄積されると、一つ目の「既存スタッフが辞めたくなる理由を排除・改善する職場環境の整備」に着手できるようになります。退職者から得た情報を踏まえた上で、既存スタッフに対して職場環境に対する不満や不安をヒアリングすると、彼らの退職を未然に防ぐ効果も期待できます。組織により改善範囲は多岐にわたると思いますが、大別すると以下の3つに集約されます。

・物理的環境
・人的環境
・制度上の環境

物理的環境とは、仕事や業務そのものに関連する直接的な不満です。仕事量の過度の増加や仕事内容の大幅変更、作業機器の故障や不備の放置、面接時の説明と実際の仕事との差異、などが該当します。仕事内容や使用機器を含む物理的な職場環境で「話が違う」「進言しても改善してくれない」という不満が就労意欲を低下させ退職につながります。業務自体がストレスなのは労働環境としては論外ですし、お客様を優先するあまりスタッフにしわ寄せが波及していることは早急に改善してください。

 

人的環境とは、一言で言えば人間問題、コミュニケーションが原因で起こるものです。同僚や上司の仕事でのストロークから、個人的な性格・性質による相性まで広範囲に及びます。「個人レベルの相性まで面倒見きれんわ!」という意見もあるでしょうが、実際には「ひと」が原因で退職を決意する人材は非常に多いのが現実です。職場環境の快適さの肝となるポイントと言っても差し支えないでしょう。組織や上司のケアひとつで退職を回避できる状況のものも多く、ここではチームつくりのノウハウが求められます。

 

制度上の環境とは、言葉通り社内に存在する制度やルールのことを指します。評価制度の不備から時代錯誤の男尊女卑的なルールまで、あるべきルールが無い場合や、あっても機能していない場合、理解できない謎のルールで言動を規制されるなどが該当します。給与が上がらない切実な事例も、社長のアホ息子のワガママを仕事より優先しなければならない暗黙のルール、なんて事例も組織内に存在する制度だといえます。スタッフにとって制度の不備や不機能は、そのまま自身の将来への不安につながります。「このままこんな職場に居続けるのか」と自問した時点で退職街道まっしぐらです。

 

スタッフの不満に応えることは甘やかしか?

さて、こうした退職者や既存スタッフから出るこれらの不満が、甘ったれた戯言にしか聞こえない人がいると思います。特に叩き上げで実力をつけた自負のある方や、同じような境遇を乗り越えて今があると思っている方にとって、彼らの不満や退職理由は生ぬるくて甘ったるい、根性ナシの泣き言に映るかもしれません。

しかし、このような感想をもたらす風土こそが、今まで離職率の改善につながらなかった原因であることを理解する必要があります。気合や根性、前時代的な価値観は関係ないのです。長く働いて欲しいと期待して採用した人材が残らない、それが現実であり「唯一の事実」だということを、真摯に受け止めることからしか状況は改善されないのです。

 

少人数でもまわる店舗をどう構築するか

さて、上記の環境整備と並行して、二つ目の「少人数でも店舗運営が行える徹底したオペレーションの省力化・効率化」にも取り組む必要があります。今までよりも少ない人数で今まで通りのオペレーションにする為の改善や、今までよりも短いトレーニング時間で一人前の作業者に育てる仕組み作り、今まで以上に適性の高い人材を採用する為の採用基準の構築などが対象となります。制度上の環境整備とも関連する問題が多く、重要な取り組みとなります。こちらは大別すると以下のようになります。

・機器の見直し
・オペレーションの見直し
・トレーニング体系の構築
・採用基準の明確化

機器の見直しとは、店舗内の機器・什器レイアウトを含めた店舗設備のハード面を変更することを指します。効率を上げる為のレイアウト変更や、より短時間で作業が完了する機械の導入、作業の一部外注化などです。注文の券売機化やタッチパネル化、飲食店であれば仕込み軽減の為にカット野菜の購入、など業種によって出来ることは様々です。

 

オペレーションの見直しは、先に挙げた機器の見直しでもお話した設備のレイアウト変更を含めて、より合理的なスタッフ作業の「流れ」を検討します。不要なオペレーションを徹底的に削り、従来のポジションと兼任でスタッフが動けるように、作業動線や作業の割り振りを改良出来ないか現場で検証します。たとえばピーク時間帯に資材や商材の補充をせざるを得ない状況を、店舗内のストックスペースを拡張しピーク時間前に補充を完了させることで、一人少ない体制でもピークがまわるお店にする、みたいな感じです。

 

トレーニング体系の構築とは、より短期間でスタッフが育つ為に従来のトレーニング手順を見直すと同時に、スタッフ個々の資質に頼らずに、店舗オペレーションのノウハウを店舗の資産として蓄積することを目的とします。たとえば、たまたま接客に向いているスタッフの資質に頼った営業を続けていると、そのスタッフが退職した時点で店舗のサービスレベルは著しく低下する上に、そのスキルを後進のスタッフに教えることも不可能になります。

これは接客のノウハウが店舗の資産ではなく、個人の資産・資質に留めていた為に起こる現象で、敏腕営業マンが抜けた後の営業成績がガタ落ちする事業所と同じ状態です。この状態を回避するには、最低の手順を記した作業マニュアルではなく、最高のパフォーマンスを発揮する為の手順を組織自身が保有するしかありません。極論すると、誰が実践しても「いい仕事」が出来るようになる方法が必要だということです。

また同時に、ベテランスタッフしか新人スタッフの教育が出来ない、という状況を変えることも検討しましょう。多くの場合、ベテランスタッフやトレーナー、リーダーという役職のスタッフが新人を教える仕組みがあると思いますが、実はこの状況に縛られることはリスクが大きい、というよりトレーニング効率という点では無駄が多いのです。これは、ベテランだけが教える「資格を持つ」という発想から「知ってる人が知らない人を、分け隔てなく教える」という発想に切り替えることで解決します。

たとえば先月入った新人が、今月入った新人を教えてもいいのです。特に就業したての場合、ベテランのトレーナーと新人のスケジュールが合うよう調整しないと新人を勤務させられない、という理由で新人スタッフの勤務回数を制限することがありますよね?しかし「知ってる人が知らない人を教える」という発想でなら、毎回付きっきりでトレーナーが教える必要はありません。もちろん教えることには技術が伴いますので「知ってるから教えられる」という理屈がそのまま通るわけではありませんが「トレーナーほど教えることは上手ではないが、進捗はゼロではない」という状況をメリットだと認識すると、新人の成長スピードは間違いなく早くなります。

 

最後の採用基準の明確化とは、よりミスマッチのない採用を行う為に、欲しい人材のスペックを組織全体で共有することです。早期退職者の数割は、実は本当に「向いてない」人材、つまり人選ミスだったのかもしれません。適性を見誤り、経験者という経歴に目がくらみ採用してしまった人材だったのかもしれません。要するに採用のオペレーションがマズかったということです。馴染まない、続かない、素質がないことを最初に判断できなかったことが、時間と採用・教育コストの大いなる無駄につながっているわけですね。

これは、前述のトレーニング体系の構築の項に書いた「誰が実践しても『いい仕事』が出来るようになる」という趣旨に相反するように聞こえるかもしれませんが、これは「適性のない人材でも育ちます!」という意味ではありません。そもそも「向いてない」人材は、組織に加えてはならないのです。あくまでも最低限の適性がある人材を採用し、イチから教育するという前提で人材育成は行う必要があります。

その為には、まず採用基準を「素養の有無」に軸足を置いて考えることが求められます。人手不足になると、どうしても即戦力が欲しくなり経験者を優遇して採用してしまいがちですが、実は経験者に素養が備わっている理由なんて何ひとつ存在しません。何らかの理由で他社が採用したという事実があるだけで、その経験があなたの組織風土で生かせる保証はないのです。帰属意識や同僚スタッフとのコミュニケーション能力が著しく低いなど、性格や気質に難がある経験者を採用してしまい、現場が混乱した経験をお持ちの組織は多いのではないでしょうか。

素養や適性は組織や業種によって求めるものが違いますが、組織がチームワークで動くという前提で考えれば、素直さや仕事への意欲、協調性の有無などを絶対条件にするべきでしょう。未経験でも仕事を素直かつ前向きに吸収して、すくすく伸びる人材を採用して自前で育てる、ということです。人材育成にかかる手間や金額は、コストではなく「投資」だと考えましょう。適切な「ひと」を選び、育て、続けさせるノウハウは、組織の資産そのものなのです。

 

辞めたいと思う職場と、辞めたくないと思う職場との違いとは

人手不足が叫ばれる今、私たちに求められるのは「どれだけ採用した『人的資産』を無駄にせず使い続けられるか」という取り組みです。辞めたくなる理由の駆逐、人材の頭数に頼らない営業、資質のあるスタッフなら誰でも早期に一人前に育つ仕組み、資質を見抜く採用活動、これらを並行して行うことで「ひとが続く」組織を構築することが可能となります。

これらが実現した職場環境は、スタッフサイドにはこう映ります。

「いい職場」

働きやすい職場、頑張りがいのある職場、だから続けようと思えるし、いい職場だと感じているから知人に紹介できるわけです。誰だって一年中仕事が順調で楽しいわけではありませんよね。壁にぶつかったりストレスを感じたり、仕事に行きたくないという気持ちになることだってあるでしょう。そうなった時に、そのまま辞めてしまうのか、それとも土俵際で「でも…」と思いとどまれるかどうかの瀬戸際って、心のどこかに「この職場を手放すにはおしい」という気持ちがあるかどうかなんです。おしくないから、辞めたらせいせいするから簡単に辞めるのです。

ここで働きたいと思われる、「いい職場」をつくりましょう。