理念経営を成功させたいのなら、朝礼での企業理念唱和は即刻中止しよう

企業理念や経営理念を掲げる事業所は数多く存在します。事務所に額装した理念を掲出したり、毎日の朝礼で理念の唱和を行ったり、リッツ・カールトンのクレドにならってカードサイズに印刷した理念を従業員に携帯させる企業も見受けられますが、残念ながらその程度の環境整備で、従業員が理念やミッションに則った行動をとる事はありません。経営者の思惑に反し、従業員に理念経営が浸透しない理由は一体何なのでしょうか。

 

従業員に浸透しない企業理念

理念経営、ミッション経営、言い方は様々ですが、商売を行う意義やお客様に対する立ち居振る舞いなどを明文化した「理念」をバックボーンとする経営スタイルをこう表現します。多くの場合、創業者自身が理想とする「企業や商売人としての在り方」が盛り込まれており、ここに掲げられた理念が従業員の行動規範となるように社内環境が整備されます。前述した「額装された理念の掲出」「朝礼での理念唱和」「カードや社員証などへの印刷」などがそれに該当しますが、残念ながらこの程度のアクションで、従業員が経営者の想いをくみ取り、日々の業務に反映させる事が出来ると考えているのであれば、それはとんだ思い違いとなります。

企業理念や経営理念は、経営者自身の「この商売に対する想い」や「理想が現実となった時の状況やイメージ」が、ギュッと数行の文章に凝縮されたものです。文字数は少ないですが、そこに込められたイメージとしての情報量は非常に多いわけです。ですので、この凝縮された「理念」を従業員が実践するようになる為には、企業理念という「ただの文章」を自分の仕事に置き換えて具体的にイメージを膨らませるという「湯戻し解凍作業」を、従業員自身に行わせる為の仕組み作りを社内の制度として用意する必要があります。

ところが、多くの企業や事業所は、理念浸透の為の制度をほとんど用意する事がありません。「ウチは理念経営をモットーとしていて、・・・」なんてカッコイイ話は社外に謳っていても、その為に何をしているのかと言えば、せいぜい朝礼の唱和くらい。理念を読み解き、従業員の行動に落とし込む為に仕組みを用意したり時間を確保する事業所は極めて少数でしかありません。理念経営だと謳いながら、ふたを開けてみると作業手順書に沿う以外の従業員教育が一切用意されていない「マニュアル経営」だったりするわけです。

 

理念経営の実践を阻害している「なんちゃって理念教育」

創業当初に理念経営を謳いながら、やがてそれが形骸化していく理由はいくつかあります。

・理念教育の為の制度や仕組みに費やす時間が圧倒的に不足している
・理念の実践度を評価する仕組みが社内に存在しない
・日々の業務や具体的な営業の戦略戦術が理念に則っておらず、理念が無くても経営が出来るという事をいみじくも証明してしまっている
・そもそも理念の作成者や牽引者が理念を実践出来ておらず、部下がそうなったらいいな程度の「絵に描いた餅」になっている

企業理念やミッション経営などの理想を掲げておきながら、実際にお客様と直接接する従業員の業務を、理念の実践が前提となっていない業務マニュアルや勤務評価制度のみを用いて管理するようになる大きな理由のひとつは、物理的な作業や視覚化できる数値目標で人材管理を行ったほうが「単純に楽だから」という、管理効率追求が原因です。

一方で、組織のミッションをアルバイトを含む全従業員に伝え、日々の行動に落とし込むという作業は、入社時のオリエンテーションで一度話せば伝わるのかと言えば、そんな事は決してありません。特に理念経営の導入時期には、ミッション遂行が当たり前の空気になるまで「場作り」を徹底する必要がある為、折に付け従業員がミッションについて考える機会を設ける必要があります。

定期的にそうした時間を確保できる職場なら問題はありませんが、それが勤務シフトやコストなど、物理的に難しいという事業所もあるでしょう。その場合はどうするか。もちろん諦めるのではなく、どこかにねじ込んででも時間や機会を確保しなくてはなりません。
あらためて時間を確保する為に業務全般の見直しを行うのはもちろん、今まで業務連絡が主だった朝礼の内容を変更したり、シフト制で一同に会する機会が少ない職場ならノートなどで意見を交換するなど、事業所の事情にマッチした方法はリストアップ可能です。

ポイントとなるのは、それを通じて自分がしている仕事の目的、すなわち「自分の仕事を通じて接したお客様が、掲げた理念の通りの印象を持ってくださり、再び顧客となって下さるのか」を確認し、実際の自分の仕事ぶりと照らし合わせ、行動を修正していくチャンスとして活用出来ているか、という一点だけです。朝礼でよく見掛ける、偉い人のいかにもエラそうな話や、大声で棒読みさせられる企業理念の唱和なんて、実際にはほとんど意味を成しません。必要なのは「我々はお客様の為に・・・」なんて耳障りのいい「言葉の念仏」を唱える事ではなく、その中身を自分の仕事に照らし合わせて「考える機会」なんです。

このように「意味と効果」で検証していけば、実は大した効果も出ていない無駄な社内の慣例って、意外に多いのではないでしょうか。もちろん、始めた当初はもっと崇高な理想を描いていたかもしれません。しかし、その意味や効果を確認する事なく、こういった慣例を継続する事は百害あって一利なしです。

何よりもタチが悪いのは、そういうものは一見事業所の規律作りに必要なモノに見えてしまいます。仕事中に「あの店のカツ丼、美味しいよね」と話す事は、誰が聞いても無駄話にしか聞こえませんが、朝礼で無意味に大声を出すだけの理念唱和は無駄話には聞こえません。しかし、その理念唱和が単に仕事の体裁をとってるというだけで、実は誰もその話を聞きながら自分の仕事を振り返ったり、その日の仕事に反映させようとして聞いていないのだとしたら、実は美味しいカツ丼屋の情報なんかより数段タチの悪い無駄話だという事です。

 

経営理念や経営ミッションは、経営者自身が背中と口で伝えるもの

組織に属する企業人なら企業理念を唱和するべきとか、毎日唱和する事で意識付け出来るはずとか、そういった「べき論」「はず論」を唱えている経営者さんは、ぜひこれを読んだ次の日にでも、唱和中の従業員さんの目がどれほどうつろかを確認してみてください。会社の理念を朝礼で唱和するだけで、社員に自然と理念が浸透するなんて事は絶対にありません。その朝礼を見てわかるのは、従業員には理念を覚える暗記力がある事と、大きな声が出せるという事実だけです。会社の理念を空で言える事と、それを自らの意志と身体を使って実践する事は全くリンクしないんです。

効果や変化が感じられない慣例を続ける事は、組織にとって害悪以外の何物でもありません。もし経営者であるあなたが望む、お客様との理想の関係を、従業員一丸となって達成したいと心から願っているのであれば、ミッション教育にかける時間がないとか言う前に、そういった「仕事の顔をした無駄話」をまず駆逐しましょう。

経営者であるあなたがつむぎ出した経営理念は、あなたや経営幹部が実践しているという「背中」を見せる事ではじめて伝わり出す、全従業員とお客様が織り成す「ラブストーリー」みたいなものです。生きた手本が目の前にある以上の教育は、こと経営理念の浸透においては存在しません。形骸化した理念の唱和を中止した代わりとして、ぜひ暫くの間はあなた自身が従業員に想いを語る機会を設けてはいかがでしょうか。