企業主導の利便性追求型サービスは、なぜ企業自身によって見直されるのか

消費者にとっての利便性をウリに展開されているサービスに、かげりやひずみが見え始めています。企業主導の利便性追求型サービスは、今後どのように変わっていくのでしょうか。

 

ロイヤルホストは、なぜ24時間営業をやめるのか

先日、ファミリーレストランのロイヤルホストは、24時間営業を中止する発表を行いました。

『ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を運営するロイヤルホールディングス(HD、福岡市)は、来年1月までに24時間営業をやめることを決めた。早朝や深夜の営業短縮も進めており、定休日も「考えるべき時代が来ている」(黒須康宏社長)として導入を検討していく方針。定休日は百貨店業界で復活が相次いでいるが、外食業界ではめずらしい。(中略)今後は深夜、早朝をやめる分、来客が多い昼や夕食の時間帯の人数を手厚く配置する考えだ。「より充実したサービスができるようになる」(黒須社長)としている。
朝日新聞デジタル ロイヤルホスト、24時間営業廃止へ 定休日も導入検討 2016/11/17』

数年前に、牛丼のすき家が「ワンオペ」問題で取り沙汰されたことは記憶に新しいですが、深夜営業を行う飲食業界での人材不足は、現在でも状況が好転しているとは言えません。適正な人数を確保する為に高い時給を設定するだけの売り上げが、深夜時間帯だけでは見込めなくなったという問題もあります。長引く景気の低迷や、スマホゲームなど室内娯楽人口の増加など、ライフスタイルの変化が深夜の集客を遠のかせている側面もあるでしょう。

今回ロイヤルホールディングスが行った決断は、過剰ともいえる現在の利便性追求型サービスの将来を占う上で、非常に大きな意味を持ちます。労働環境の悪化や、それに伴う人的サービスレベルの低下と引き換えに薄利を得る経営のあり方に、一石を投じたと言っていいでしょう。

 

実はまったく顧客ニーズにマッチしていない、企業主導の利便性追求型サービス

これまでにも企業は、顧客の利便性追求という名のもとに様々なサービスを生み出してきました。コンビニやファミレスに代表される24時間営業、年中無休営業、朝注文した商品が当日の、しかも指定した時間に届くなど、私たち消費者の日常には「便利」があふれています。しかもそれらの多くは、新製品の開発やハイテクな機械の導入によってなされるのではなく、既存従業員の仕事の延長として成立する人的サービスという共通点があります。

こうした利便性追求型サービスの多くは、消費者からの強い要望によって生まれたものではありません。顧客のニーズを追求しているのではなく、消費者の「あったらいいな」を、先回りして商品化したものです。確かに深夜に外食できるのも、ネットで買った商品が当日の決められた時間に届くもの便利でありがたいことですが、これらは決して私たちの多くが必要性を感じたことで生まれたサービスではなく、実は「無ければ無いで、何とかなるよね」というレベルのサービスが数多く存在します。

 

細やかな顧客サービスの「しわ寄せ」はどこにくるのか

ひとつの企業がこのような新サービスを始めた場合、同業他社は追随するケースがほとんどです。しかし、参入する理由は市場に大きな可能性を見出したからではありません。新規サービスを開始した企業と比べて、自社のサービスが見劣りするのを防ぐ為です。定休日のあるショッピングセンターより年中無休のショッピングセンターが、午後11時に閉まるコンビニより24時間営業のコンビニが、より充実したサービスを提供しているように見えるのは当然でしょう。

たとえばファミレスの営業時間を延ばし、24時間営業というサービスの提供を開始すれば、単純に売り上げはアップします。売り上げ至上主義の傾向が強い大手企業は実施に踏み切りますが、そこには様々な問題が発生します。中でも大きな問題は、営業時間やオペレーションが増えたことに対して充分なスタッフィングが出来ない、または利益確保の為にあえてスタッフ数を最低限で営業を続けるという、労働環境へのしわ寄せです。

立地にもよりますが、昼食や夕食のピーク時間が発生しない深夜の営業を開始すると、全体での利益率は低下します。そもそも深夜営業はレストランの「付加価値」という位置付けですから、それ単体で高い売り上げや利益を生み出すことは最初から想定されていません。深夜の営業時間だけを区切ってみると、開ければ開けただけ赤字になる店舗も少なくありません。深夜も営業していて消費者には便利でも、利益にはなりにくいのです。

しかも、圧迫するコストのしわ寄せは既存スタッフの労働環境に直接影響を及ぼします。人件費を絞る為に「ワンオペ」に近い極限の人数でまわしたり、深夜労働を希望するスタッフが揃えられない場合は、長時間労働や、休憩をはさんだ昼夜2回の勤務を強いられるスタッフも発生します。疲弊したスタッフを使うことは、お店のサービスレベル低下に直結しますので、お客様の離反という本末転倒な事態も招きかねないわけです。

 

ファミレスだけじゃない、過剰サービスが生む従業員へのひずみ

今回のロイヤルホストの件だけではなく、先回り指向の利便性追求サービスを見直す動きは他業種からも出ています。

『消費者の利便性向上や売り上げ競争のために、サービスは手厚くなる一方。だが、それを見直そうという動きも、少しずつ出始めている。今年1月、百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングスが首都圏の伊勢丹、三越の計8店舗で前年まで初売りを行っていた2日の営業を取りやめた。従業員らの負担軽減が目的だ。5年前、老舗「虎屋」の黒川光博社長ら百貨店に出店している企業が「休業日を増やして」と申し入れていた。
AERA 再配達や年中無休、本当に必要ですか?過剰品質が働く人を追いつめる 2016/11/14』

消費者の不便や不満を解消する商品やサービスの提供は、企業存続の為に必要な活動です。しかし、結果的にそれが本質的な顧客満足の足かせになるのであれば、見直しや撤退も必要になるでしょう。特に消費者への細やかなサービス提供につながるものは、ダイレクトに従業員の労働環境に影響を及ぼします。実質的に企業の顔となる、最前線で顧客と接するスタッフが今どのような状況にあるのか、人的サービスを扱う企業は常に注意を払う必要があるでしょう。