アットホームな印象をお客様に与える、商売人にとってのイメージ戦略

私は店舗の経営コンサルティングを行っている関係で、いわゆる「お店や事業所への評価」がもつ言葉の意味や、その言葉が持つ意味や及ぼす影響について観察しています。「アットホームな職場」や「アットホームなお店」などもそのひとつ、よく耳にする「褒め言葉」のひとつです。その定義は人それぞれ、若干の違いはあるかもしれませんが、だいたいにおいては、聞く者に「居心地のよさ」を連想させますよね。

 

「アットホームなお店ですねぇ」という評価

「アットホームな」という言葉が使われる状況に共通するのは、どこか日常的で親近感が持てるムードです。まるで誰かの家に遊びに来たかのような店内装飾やインテリア指してそう表現する場合もありますが、たいていの場合は精神的な距離感に対しての評価となります。

ほとんどの業種において「アットホームな」と称されるお店や事業所は、同業他社と比べて高評価・好印象を得ています。お客様に親近感を与えることで、結果的にリピートを決定付ける要因のひとつになっているのですが、多くの事業所は「アットホームという印象を獲得して業績を上げる」という経営戦略を表立って採用しません。結果的に「アットホームなお店ですね」という評価をお客様から頂く事はあっても、創業時に「アットホームという印象をお客様に与えてリピーター化しよう!」というような目標設定をする事業所はほとんどありません。

例えば、家庭的な銀行。ちょっとイメージ出来ませんよね。

しかし、あってもいいはずなんです。

もし今から新しく銀行を作るとなったとしたら、ほとんどの人は無意識に現存する銀行をモデルケースにして、それに近いものを作ろうとするでしょう。業務のフローそのものはもちろん、行員のかもし出す雰囲気や立ち居振る舞い、お客様に与える印象を含めてすべて、自分自身や世間が考える「銀行のイメージ」に近付くように準備を進めていくと思います。

例えとして銀行を挙げましたが、これは他の業種でも同じです。

魚屋を始めるなら魚屋っぽく、コンサルタントを始めるならコンサルっぽく、塾講師になるなら塾講師っぽく。そこに特別なこだわりが無い場合、新規参入する人は、まず世間が考える「ステレオタイプ」のイメージをゴールとして捉えます。

事業に新規参入するほとんどの人が「ステレオタイプ」を選択しようとします。という事は、最初にあえてステレオタイプからは外れる「立ち位置」を選択するだけで、競合との差別化という点では大きなチャンスとなります。なぜなら、その立ち位置を選んだというだけで、消費者側から見ると単純に目立つ・目に付く・目にとまる、というアドバンテージが発生するからです。

身近な例でいえば、商品や事業所に「マスコットキャラクター」を設定する事などがそれにあたります。近年では自治体がゆるキャラを設定しする事で認知を上げ、観光誘致や物産品の販売で成果を出していますよね。

過去には空調機器メーカーのダイキン工業が、松下、東芝、三菱、日立に押され、低迷し続けていた家庭用エアコンのシェアを奪取する為に、エアコンの販促に業界初のマスコットキャラクター「ぴちょんくん」を投入しました。従来のイメージにこだわる古参社員からの猛反対を押し切りメディアに登場したぴちょんくんは、異業種からの引き合いがくる程の人気を呼び、本業である家庭用エアコンシェアも見事業界一位を獲得します。

ステレオタイプではない「身近な印象」を消費者に与えることで、いわゆる「キャラが立つ」という状態になり、お客様にお店や商品の記憶を長期間とどめてもらえるようになります。しかし、ではゆるキャラやマスコットは誰でも用意できるのかといえば、そうではありませんよね。キャラクターをデザインするコストや、キャラクターを含めた販促活動を展開して認知を上げていく資金が必要ですので、その為の予算を確保できる事業所でないと実現は難しいでしょう。

となると、業種の違いや資本力の大小を問わず、競合他社よりも「身近な存在」「キャラが立つ」とお客様に感じてもらえる方法が、同業他社との差別化には必要となります。クレープ屋でもクリーニング屋でも歯科医院でも実現可能な「キャラを立てる方法」は、設備や予算に関係なく存在する「人」という存在、そこで働く人達の立ち居振る舞いにキャラを持たせるというアクションが、最も適しているという事になります。

一言で「立ち居振る舞いにキャラを持たせる」といっても、何も奇抜な言動をする必要はありません。お客様がお店に対して親近感を覚え、結果的にそれが同業他社との差別化につながればいいわけです。要は「お客様との距離が縮まる行動」だけに特化すればいいんですから、どの業種でも実現が可能でお金もかからない、最も簡単に出来るイメージ戦略のひとつが「アットホームな印象を与える」という事になるわけです。

 

「アットホームな」という印象は、いやらしいくらい簡単に作れる

前述しましたが「アットホームな」という印象の有無は、お客様と売り手、お客様同士、または従業員間の精神的な距離感で決定します。決して実家のお母さんが作ったようなブリ大根を出す居酒屋の事を「アットホームなお店」と言うわけではありません。

提供する商品やサービスの質そのものが同業他社と変わらなくても、お客様との距離感はあなたが独自に設定できます。その逆はありません。お客様は、あなたが設定した距離感に基づいて行動した結果を「印象」として受け取るだけで、決してお客様のほうから距離を詰めては来ません。あなたが決めたお客様との距離感が、そのままお客様が受け取る「あなたとの距離」になるというわけです。

お客様と近い関係になりたいのであれば、まず最初にあなたがする事は「お客様の近くにいよう」と決める事です。お客様に近付こう、という意識をもって接する事を最初に決め、それを言葉と行動に反映させると決めるだけの話なんです。

具体的には、以下のような行動をルールにするだけです。

・お客様が入店の際は作業の手を止め、身体正面をお客様に向けてあいさつする
・今までよりも、もう半歩分近付いて話すように意識する
・お客様との会話中は相手の目以外を見ない
・お客様が話す内容に大きくうなずいたり、合いの手を入れる
・プライベートな話を伺う、こちらからも話す
・商品に関係ない雑談を必ず行う
・数回目以上のお客様は名前で呼ぶ、その為の顧客データを全従業員で共有する

これらは、私自身が関わったりアドバイスに参加したお店で実際に行われ、一定の効果があった具体的な行動ルールの一部ですが、予算確保が必要なものはひとつとしてありません。今まで実行していなかったり、しているつもりなのに実はちゃんとできていない項目を確認し徹底するだけです。

誰だって出来るような事ばかりですよね。しかし多くのお店はただ単にやろうとしていなかったり、既に出来ているという思い込みから、あらためて着手しないままだったりします。例えば、お客様の目を見て話すのは当たり前だと思っている人であっても、実際にその人の接客を観察してみると、会話中の半分以上は机や商品に視線が逃げている事が数多くあります。やってなければやってみる、やってたつもりでも出来てなかったのなら出来るように行動を変える、必要な行動はたったこれだけなんです。

 

快適な人間関係には「喜楽」がある

お客様は勝手にリピートしてくれるわけではありません。お店での応対に何かしらのフックを感じないと次回の来店にはつながりません。しかし、だからといって奇をてらう必要なんてないんです、本来の商品やサービス提供業務を通じて「お客様にグッと近付く」事を意識するだけで、お客様にとっては充分な好印象となります。

喜怒哀楽という言葉がありますが、人間は、出来れば「喜」と「楽」に包まれた時間を過ごしたいと願っています。「アットホームな」と言わしめる関係には、これらがふたつとも存在します。そしてこうした時間は、お客様との関係に限らず職場の従業員同士の人間関係構築においても、どちらかが「そうなろう!」と思った瞬間から、いとも簡単に構築が可能だという事を知っておきましょう。