なぜガリガリ君だけが、値上げをしても歓迎されるのか

赤城乳業の「ガリガリ君」が、4月1日の出荷分から値上げを行いました。商品の値上げ自体は他企業でも目にする光景ですが、これほど消費者から好意的な反応が示された事例は極めて珍しいといえます。なぜガリガリ君の値上げだけが歓迎されるのでしょう。

 

値上げしたのに褒められる、異例づくしだった値上げ劇の鍵となる企業の姿勢とは

1981年に発売されたガリガリ君は当時の価格が50円、10年後の1991年に60円となり、今回の値上げは実に25年ぶりの価格改定となります。

『原材料の高騰が理由で「当たり」が表示される木のアイススティックは3年前と比べ仕入れ価格が90%高くなったほか、果汁は40%、物流費は10%上昇した。それに加え、人手不足による人件費高騰も大きく、企業努力でのコスト削減が可能の限界を超えたのだという。食料品関連の値上げとなると批判が付いて回るのが普通だが、「ガリガリ君」に限っては反応が違っていて、「まだ安い」「今までよく耐えた」「100円でもいい」などといった評価の方が多いのだ。
J-CASTニュース 「ガリガリ君」値上げに25年間60円「よく耐えた」の声 1本70円「まだ安い」と言われるワケ 2016/03/11』

さらに値上げ当日の4月1日には、同社会長をはじめとする社員一同によるお詫びCMがテレビでオンエアされ話題となり、この記事を書いている時点でのYouTube再生回数は145万回を超える反響を得ています。異例づくしだった今回の値上げ劇を生む鍵となったもの、それはひとことで言えば「徹底性」です。値決めや顧客とのスタンスにおいて、企業側の一貫性のある徹底した姿勢の表れが評価されたものだといえます。

 

企業努力を顧客にどう伝えるかで変わる、企業としての取り組み姿勢の見え方

通常、私たちが商品価格の値上げという発表を受けた時、原材料の高騰など値上げに至る理由から「仕方ないなぁ」と感じることはあっても、賞賛や励ましの声を上げようとまでは思いません。今回のガリガリ君も、上げ幅の10円は大人の金銭感覚では「たった10円」ですが、売価60円で利益を生み出していた商品として見れば値上げ率は16%超、実は大幅値上げと言っても過言ではありません。

にもかかわらず、ガリガリ君の値上げが好意的に受け止められるのは、大人目線での「たった10円」を値上げする為に、企業側がどれだけの時間と価格維持の努力を行ってきたかが、実情はどうあれ「そう見える」という点です。

25年ぶりの値上げという響きはそうした印象を与える肝になっていますが、同じ売れ行きで25年もの間価格を据え置いていたのではありません。上の記事によると2006年の売り上げは1本60円換算で約1億6000本だったのが、2015年は約4億1000万本売れたとあります。有名人がガリガリ君のファンであることを、メディアで公言したことなどから知名度が上がったようですが、好調な売り上げ推移が価格維持を延命させたことは間違いありません。

加えて企業側がガリガリ君の位置づけを、子供がお小遣いで買いに行ける極めて庶民的なお菓子だという立ち位置を充分に理解し、「そうあり続けよう」という姿勢を企業努力によって、価格維持という形で表現したことが非常に大きいと言えます。多少うがった見方になりますが、低価格なお菓子の、各原材料の仕入れ価格上昇率を詳細にアナウンスする「見せ方」によって、結果的には庶民の味方が苦渋の決断を強いられたという状況が見事に表現されています。もちろん尋常ではない企業努力があってこそですが、それがここまで消費者に伝わる事例は極めて珍しいのです。

 

あえてやり過ぎているように見せる、絶妙なバランス感覚

また今回の値上げ劇を、言葉通り笑って許す空気に変えたトドメの一撃がお詫びCMです。価格改定当日に、あえてメディアを使って大々的に告知し、しかもその内容が会長以下社員一同が深々と頭を下げるという異例づくしの展開に、世間での「たった10円にそこまでするか!?」という印象は最高潮に達しました。商品の値上げという本来ならネガティブなだけの報告が、この時点で企業イメージを向上させるイベントにまで昇華したといえるでしょう。

ガリガリ君という商品において赤城乳業が特筆に値するのは、商品が消費者の目にどう映っているか、どういう立ち位置にいるのかを知る感覚の鋭さと、それを巧みに操るさじ加減の上手さです。ガリガリ君はその高い商品開発力で、ナシ味のような新定番ともいえる人気商品を生み出す一方で、完全にイロモノとしてしか認知されないであろう味の商品もいくつか発売しています。

特に後者は、実験的な試みに対して柔軟な社風の表れでもありますが、おそらく社内の誰もが、味そのものが支持されて大ヒットやロングラン販売につながるなどとは最初から考えてもいないはずです。ナポリタン味やコーンポタージュ味など「そんなのアイスにするか!?」という世間の反応は予め織り込み済みでしょうし、味に対する賛否が分かれるのも想定内です。商品に話題性を持たせることが、どれだけ企業の認知や関連商品の売れ行きに貢献するかという事実を理解しているからこそできるプロモーションだといえます。

 

テーマを問わず「徹底的にやる」と決めた企業の姿勢が、消費者の好感と共感を呼ぶ

赤城乳業は、多くの企業には腰が引けて出来ない「マジメにふざける」というプロモーションを打てる、数少ない食品会社です。それは決して偶然手に入れたものではなく、SNSなどを通じて消費者個々が情報を発信する、現在のネット環境を冷静に見据えた上で培った技術です。新商品の企画や価格の改定もイベントに変える話題作りの上手さと、メディアの使い方は秀逸だといえます。

安い・おいしいなど、食品メーカーとしての企業努力を徹底するだけでなく、顧客にとってどういう位置付けでありたいかというポジショニングを徹底する姿勢が、今回の値上げ劇では特に顕著に表れています。顧客に対して真摯に向き合うのは当然として、真摯であることをどのような表現で顧客に伝えるかという引き出しと、マジメにふざけて顧客との関係性を良好に保つ懐の深さについては、業種を問わず参考になるのではないでしょうか。