差別化・独自化への 第一歩は、慣例への 聖域なき改革から。

会社やお店の経営者にとって、競合他社との差別化は常に大きな懸案事項です。実際に私がクライアントから受ける相談でも、常に上位にランクインしているテーマとなっていますが、小手先で違いを見せようとしても効果は長続きしません。中小企業が個人事業主が競合他社に埋もれることなく、お客様に独自の立ち位置を提示する為に必要な、経営者が行う自社の棚卸しについて解説します。

 

お客様に違いが伝わらないものは、決して選ばれない

差別化・独自化・先鋭化、競合他社との違いは様々な表現で会社やお店の運営に求められます。商品の価格や質、品揃え、想定顧客、接客サービスの質などのカテゴリにおいて、同じ商圏内の同業者との明確な違いをアピールすることで、流動客の取り込みや、一定のお客様からの支持を得ることが期待できます。違いを出すという言葉だけを聞くと簡単なことのように思えますが、企業イメージを損なわず長期間にわたって独自の立ち位置を確保し続けるのは容易ではありません。

差別化と聞いて真っ先に浮かぶアイディアは、商品の価格や質、品揃え、想定顧客の特化や接客サービスの質などでしょう。近隣の同業他社よりも価格を下げたり、品揃えを充実させて専門店化したり、まず他店の動向を見た上で、それとは違ったものを用意するという方法で、多くの会社やお店で用いられている方法です。この方法は、いわゆる「後出しジャンケン」です。モデルとなる近隣同業他社の動向をチェックし、そこには無いものを用意するだけで差別化は完了、とても簡単に実践できます。

 

後出しジャンケンという、安易な競合との差別化が生み出す弊害

しかしこの方法には大きなリスクが伴います。それは「イニシアティブは常に競合企業側が握っている」ということです。差別化の中身は他社の活動に対するリアクションでしかありませんので、自社には活動の軸となるものが存在しません。競合企業が動きを見せた後ではじめて行動を開始しますので、自社展開までのタイムラグがあり、セールスチャンスも逃がしています。他社の動向に反応するだけの商売は、戦術の基本が常に「二番煎じ」となりますので、顧客志向でクリエイティブなものを生み出す企業風土が育ちませんし、ファンと呼ばれる顧客が付きにくいという現実もあります。

競合他社との違いがなければ差別化とは言えませんので、競合の動向に注意を払うのは必要なことです。しかし矛盾して聞こえるかもしれませんが、同業他社との違いだけをひたすら追求す姿を見てファンになるお客様はほとんど存在しません。なぜなら所詮それらは猿真似で、そこには人をひき付けるオリジナルな魅力が備わっていないからです。流行りの服の色違いを三か月遅れで着続ける人に、ファッションの相談をしたいと思わないのと同じことです。ダサくはないけど、ファッションリーダーにはなり得ないわけです。では、どのような手順で同業他社との違いを打ち出せばいいのでしょう。

 

経営理念から生まれる行動規範が持つチカラ

イニシアティブを自社に置いた「軸」のある差別化の第一歩は、他社の動向をチェックする前に、まず常識や業界の慣例を捨てて自社の価値を棚卸しすることです。目立つファッションを選択し続ける前に、まずはそれを着る人間の個性を明確にすると言い換えていいかもしれません。言葉にすると簡単そうに思えますが、業界での慣例に疑問を持つというのは思っている以上に難しいものです。

例えば、お客様がお店に戻ってくるという意味を込めて「いらっしゃい」を「お帰りなさい」、「またお越しください」を「行ってらっしゃい」という挨拶にしている飲食店を時々見かけます。お客様が来店する際にかける「いらっしゃいませ」というフレーズは、多くの事業者にとっては疑問にすら感じない慣例のひとつです。お客様が来たら「いらっしゃい」と言う、という慣例に疑問を持つ事ができたからこそ「お帰りなさい」という来店時の挨拶が生まれたはずです。こうしたお店は、多くの事業者がメスを入れなかった聖域に踏み込んでいるといえます。

このような取り組みは、ただ競合がやっていないような変わった事をしたいというイロモノ的発想だけで行うと効果が発揮されません。競合の動向ありきでお店の活動を決めてしまうことに変わりはありませんので、お店独自のファンを作りにくい商環境を自ら構築してしまいます。この状況を避ける為には、競合との違いをを見つける前に自社の強みや弱みを把握し、理想とするお客様との関係を充分にイメージし全員で共有するという、行動規範作りを先行させることが求められます。

前述の変わった挨拶をする飲食店で言えば、お客様に自宅でくつろいでいるような空間を提供したい、家族のように親密な関係を築きたいという価値基準や行動規範がお店にあるからこそ、その指針に沿って活動の一環としての挨拶が発生したはずです。ちょっと変わった挨拶をしてみようというイロモノ的発想にとどまらず、従業員の立ち居振る舞いも価値基準を裏付けるものになっているからこそ説得力を持つアクションとなり、お店のファンが育つわけなんですね。

 

価格競争からの脱却を望むなら、まずはお店の差別化・独自化から取り組もう

インターネットが普及現代の日本では、競合の存在しない商売は皆無と言っていいでしょう。特に既製品を扱っている場合、購入先を選ぶ理由を見つけられないお客様が持ち出す最終的な判断基準は価格になってしまい、資本力のある大企業だけが生き残ることになります。大手スーパーの進出でシャッター街と揶揄されるようになった地元商店街の例は、枚挙にいとまがありません。違いを見つけて、磨きをかけて適切にアピールすることは、中小企業や個人事業主だからこそ必須のアクションだと言えます。

お客様とどういう関係を築きたいのかというビジョンと、それを実現する為に必要な仕組みを社内に用意する為に、まずは聖域を設けず自社の棚卸しを行ってみましょう。賞味期限を勝手に延ばしちゃダメ、産地を偽っちゃダメ、本当に踏み込んではならない聖域は、お客様の信頼を裏切る行為だけかもしれません。明確なビジョンと柔軟な姿勢で、お客様に選ばれる組織を作りましょう。