新入社員を早期退職させない為に、企業がまず見直すべきことは何か

ここ数年、新卒採用は学生の売り手市場が続き、企業の採用人事にとっては厳しい状況が続いています。しかも、せっかく採用した新卒社員の離職率は低下していない為、特に中小企業では慢性的な人材不足が組織の成長を阻むケースも見られます。胸を躍らせて入社したはずの新入社員は、なぜ早期退職を決意するのでしょう。

 

中小企業のミスマッチ採用が、新入社員の半分を退職に追い込んでいる

平成28年10月25日に厚生労働省が取りまとめた新規学卒者の離職状況によると、高校・短大卒業者の40%以上、四年制大学卒業者の30%以上が卒業後3年以内に離職しています。しかしこの数値は、採用人数を基準にしてみると、事業規模による離職率の違いが浮き彫りになります。採用人数が1000人を超える、いわゆる大企業では約24%なのに対し、採用人数が5人未満の企業は約60%、採用人数が5人から29人の企業でも約50%の新卒採用者が卒業後3年以内に離職していることになります。

この結果は、事業規模が大きくなると離職率は低下するという事実を表していますが、実はそこに大きな意味はないと私は考えています。大企業で働きたい、大企業で働くことにステイタスを感じる人は依然として日本では多いでしょうし、大企業の資本力による給与や福利厚生などの待遇差に加えて「大企業に勤めている自分でいたい」というブランド志向が退職のストッパーになっている可能性が高いからです。

むしろ、新卒採用1000人超えの大企業でさえ、3年以内に4人に1人が退職している事実を重く見るべきでしょう。中小企業は大企業と違い、給与や福利厚生が良くないから離職率が高いと経営者自身も誤解しがちですが、企業規模を問わず給与や福利厚生は、入社前に明示しているはずです。にもかかわらずこれだけ早期退職が多いのは、明示していた待遇と現実に大きな隔たりがあるか、そもそも明示すらしていなかった事実があるからだと考えられます。要するに、目を輝かせて入社した新入社員の数割が3年以内に退職するレベルのミスマッチ採用を、結果的に企業側が意図的に生み出しているということです。

ただ、中小企業が特に深刻なのは、たとえば5人しか採用しないうちの半分以上が3年以内に辞め続けていけば、企業風土どころか業務の継承・発展すら難しいという、経済活動維持の根幹に関わる問題をはらんでいる点です。企業名がブランドになり、人材確保が比較的容易な大企業ではないからこそ、採用のミスマッチによる早期離職は、組織に致命傷を与える可能性すらあるわけです。

 

採用活動のゴールは「採用」ではない!

まず採用のミスマッチを最小限に留める為に守る、唯一無二のルールがあります。それは「入社したらバレるウソで人材を集めようとしない」という極めてシンプルなものです。これは入社後に「え!? 話が違う…」と感じる可能性のあるものすべてを採用活動から排除することが目的で、過大な表現だけでなく、事実を「あえて言わない」というウソも含みます。たとえば、あえて基本給を低く設定し、手当てで水増ししている給与体系の内訳や、図抜けて昇進の早かったレアケースを、さもその昇進スピードが標準的なもののように紹介するようなことが該当します。

前述の通り、新卒採用は学生の売り手市場が続いていますので、採用者の質はもちろん、頭数を必要数揃えることも難しい状況です。企業のマイナス面に映る事実は出来る限り隠したり、別の表現でごまかしたりしたいと考える気持ちはわかりますし、多かれ少なかれこれに近い、事実を誤認させるような表現をしている企業は、私の知る限りでも決して少なくはありません。しかし、そのウソは入社した途端にバレて組織への不満に変わります。一昔前のパチンコ屋が釘をガチガチに閉めてイベント広告を打つようなもので、どんなに射幸心をあおって集客しても、遊技して誇大広告だったと気付いたお客さんは離れていくのと同じです。

採用活動は、採用することがゴールではなく、一人前になるまで育て、長期にわたって活躍してもらうまでがゴールです。組織の体質に不満を抱えた人間にそれは望めませんし、その不満のタネを、企業自らが応募者の胸に植えてまわっていることこそ自殺行為です。ウソがウソに聞こえない上手い言い回しを考える前に、ウソをつく必要がなくなる環境を作る必要があります。そしてその為の方法は、大きく分けてふたつあります。

 

採用活動は、企業内制度改善の機会点として捉えよう

まずひとつ目は、ネガティブに思えるものを根本的に解決する、ということです。採用人事の担当者が「コレ、就活生に言っちゃうとマズいよなぁ」と感じる事実の改善を、小手先ではなく全社を挙げての課題として取り組む。事実上有給が取れない空気が職場にあるなら、ちゃんと法定分取得出来るようにするとか、昇給が偉い誰かの気分次第で決まるのなら、ちゃんと評価制度を設けるなどです。改善するのに5年かかるのなら「今はこうだけど、5年かけてこう改善します」って堂々と言えばいいんです。これだけで少なくとも、入社後に新入社員を失望させる要因は減少するでしょう。

もちろん問題点のリストアップは、人事部だけの密室芸で済ませるのではなく、実際に入社した社員たちにヒアリングしてギャップを拾い集めます。特に早期に退職を希望した人間に対しては退職者面談を行い、最低でも本音の部分での退職理由を聞き出し改善につなげる必要があるでしょう。

また、ギャップの改善には明確に解決する順番があります。アメリカの心理学者、アブラハム・マズローが唱えた「マズローの欲求5段階説」の下の段階から、特に第1段階の生理的欲求と第2段階の安全欲求に関係するものは最優先で解決する必要があります。食事や休憩も十分に取れず、残業や休日出勤が常態化している場合は、人間の生存欲求が満たされていない状態。極度の低賃金や病気を押して出勤しなければならない職場の空気、いじめや上司のハラスメントが存在している場合は安心・安全に暮らしたいという欲求が満たされていない状態です。最低限このふたつの欲求が満たされる環境がないと、どんなに高給を払っても人材は長続きしないと考えていいでしょう。

 

彼らは職場で人間としてどう扱われ、チームの一員としてどう扱われているのか

ふたつ目は、ネガティブな事実以上のポジティブな動機や環境を企業内に作る、ということです。簡単にいえば、その企業で働くこと自体に価値を感じてもらえるようにすることです。基本的に退職につながるネガティブ要因は、すべて改善に向けて着手することが求められますが、財務的に実現が難しいことはあると思います。多くの社員が給与に不満を持っているとわかっていても、はいそうですかとアップは出来ないはずです。

たとえば、他社より給与が少ないことを不満に感じている経理部の社員は、同じ経理の仕事をするのであれば、給与のよい他社経理部に転職したいと考えているかもしれません。しかし、今の会社で働くことに少なからず愛着や喜び、充実感を得ていれば事情は違ってきます。会社の雰囲気や社風、帰属意識を感じられる職場や人間関係の良さ、仕事へのやりがいや達成感などが得られ、それが本人にとって働く上で大きなウェイトを占めるのであれば、その他の不満が退職の理由にまで大きくならない場合があるのです。

入社前の説明会ではご大層に理念や企業ミッションを語っていたのに、入社した途端そういう話が一切出なくなり、ただ業務に終始する日が続くだけでも退職動機は生まれます。逆に、小さなことでも自分の存在や必要性を認めてもらえていると実感するだけで、その職場に居たいという気持ちにはなるものです。結局、替えの利く「いち労働力」としてではなく、人格や資質を認められた上で、必要とされたり、職場や企業のチームに参画しているという帰属意識を得られることが組織への愛着につながり、離脱を防ぐこと貢献するわけです。

 

だまし討ち採用を続ける限り、新入社員の早期退職は減少しない

商品のパッケージに過剰なコピーや、ウソの商品写真を載せたらクレームになりますよね。お客様にやったらマズいと誰もがわかっていることを、就活生にはやってしまっている現実があります。本当のことを伝えると逃げられるからと、上手い具合にごまかして就活生を集め入社日を迎える。新入社員の早期退職を減らしたいのなら、まずは採用のミスマッチをなくことに注力する必要があるでしょう。自分を騙した相手には心を開かない、ひととしてあまりにも当たり前の感覚です。