相次ぐ牛丼大手の値上げに見る、付加価値というモノの位置付け

先日、すき家を運営するゼンショーホールディングスが牛丼並盛りを350円に値上げし、吉野家、松屋と並び牛丼大手3社の並盛り価格は揃って300円台となりました。原材料高騰や人手不足が値上げの背景ですが、この状況を単なるコスト圧迫へのリアクションで終わらせるか、転換への足掛かりにするチャンスと捉えるかで、今後のビジネスモデルが大きく変わる可能性があります。この事例から、商品と付加価値の関係について読み取ってみましょう。

 

誰も抜け出さない「価格競争」という名のラットレース

『吉野家は、昨年12月の値上げ後の客離れで、既存店客数が今年1月以降、前年同月比20%近いマイナスとなっている。各社は消費者のつなぎ止めに躍起だ。すき家は値上げにあわせ、肉やタマネギなどの具材の量を20%増やした。昨年値上げした松屋も関東などの店舗で、牛肉の質を高めた「プレミアム牛めし」に切り替え、価格に見合った品質をアピールする。一方、吉野家は8日、持ち帰りメニューをスマートフォンで予約できるサービスを開始するなど、付加価値を高める試みを始めた。
牛丼大手「並」300円台 増量や質で客つなぎ止め 産経新聞 2015/04/16』

長らくこの業界は、同業他社よりも安く商品を提供する事で話題を作り、しのぎを削ってきました。どこか一社がキャンペーンとして価格を下げると、ビックリするようなレスポンスの良さで追従するという疲弊戦を繰り返しています。今回の値上げに伴って実施されている各社の付加価値を高める対応は、一見するとこのラットレースから脱却を計ろうとしているように思えますが、実は本質的に何も変わっていません。

 

お客様への付加価値の与え方は二種類ある

今回の基幹商品の値上げは、原材料高騰や人手不足などの外的要因によって強いられたものです。各社の付加価値を高める為の様々な施策は、決して商品価値そのものを高める為のものではなく、値上げによって消費者が感じる割高感を軽減させたいという、どちらかと言えば後ろ向きな消火活動に近いものがあります。この先もし円高などで再び値下げが可能な環境になれば、おそらく三社共がこぞって価格改定を実施するでしょう。

これまで各社は、商品の魅力や価値を高める事ではなく、価格を下げる事で魅力や価値を訴求し集客してきたという歴史があります。商品購入のトリガーを価値の高さではなく、価格の低さに求めるお客様を集めて今があるわけですから、価格を上げたらお客様が離れるのは当たり前です。値上げの割高感を薄める為の消極的な付加価値ではなく、来店動機に直結する積極的な価値創造を行わない限り、今後も外部要因に翻弄され続ける経営を強いられるのは火を見るよりも明らかだと言えます。

 

価値を見出す、付加価値を高めるとはどういう事なのか

ではこれまでに、安売り以外で話題をさらったり、客層を広げる事例がこの業界に無かったのかと言えば、そんな事はありません。例えば「特盛」や「メガ牛丼」が発売された時は大きな話題となりましたし、売り上げや客単価に大きく寄与しています。この業界では後発となるすき家が業績を伸ばした理由のひとつは、商品のバリエーションを女性や子供に支持されるものにまで広げ、ファミリー層を顧客として取り込む事に成功したからです。

これらの事例はすべて、価格に頼ったものではありません。高価格な特盛やメガ牛丼、ファミリーの外食先として選ばれるという価値は、円高やデフレなどの外部要因を理由に、ピリピリしながら行う価格の上げ下げに反応する客層とは明らかに別のものです。付加価値とは本来こうしたものです、今ある価格を高く感じさせない施策ではなく、今ある価格以上の価値、または今までは存在しなかった新しい価値を感じさせる為の施策なんです。

 

問われる企業価値と、お客様とのスタンス

誰だって美味しいものが安く食べられれば喜びますが、安さが最優先だったお客様は、たとえそれが企業側ではいかんともしがたい事情であったとしても、値段が上がれば離れていくでしょう。今後も低価格を集客の生命線として経営を続けるのか、少しずつでも本来の付加価値を提供して新たな支持を得るのか、企業の「付加価値」というモノの捉え方が鍵を握っています。

いち牛丼ファンとしては、わずかな価格差でお客様を奪い合う戦略から、価格以外の来店動機につながる戦略へとシフトして、消費者にとっての新しい価値を提示する事でしのぎを削ってくれる事を願います。